世界中に溢れる"美しい"を、ぜんぶ。


へなへなとへたり込む南さんを軽々と抱きあげ、保健室を去っていこうとする彼は、振り返って凪くんに視線を遣った。


「またな。彼女が不安にならないようにしてやれよ、凪」


そうして南さんと共に出ていく。


……彼女じゃないのに。


彼女になる資格なんて、あたしにはない。


凪くんを守れなかった。


ただ傍観するだけしか出来なかった。


「リンちゃん、大丈夫?ケガしてない?」


……してないよ。だって、何もしていないんだもん。

それなのに、どうして凪くんはそんな優しい言葉をかけるの?


ぶわっと涙が溢れる。


「リンちゃん……泣いてる?」
「泣いて……ない」
「うそ。泣いてるじゃん」


凪くんは碧眼であたしをまっすぐに見つめる。