世界中に溢れる"美しい"を、ぜんぶ。


「失礼しまーす」

突然の声に振り向けば、背の高い男子がドアに手をかけていた。


「お?先生いないじゃん」


そして、あたしたちの姿を見つけて近寄ってくる。


その男子は凪くんに視線を遣り、「うわ、まじ?」と低くつぶやいた。

彼の表情を目にした瞬間、すうっと背筋が凍っていく。


「目も青いんだけど。校則的にオッケーなわけ?」


凪くんの瞳を覗き込んでそうつぶやく彼は、おそらく体格からして先輩なのだろう。

思わず顔がひきつる。


凪くんは何も読み取れない無表情のまま、静かに彼を見ていた。


何か言わなきゃ。

守らなきゃ。


心の中では強くそう思うのに、震えて声が出せない。


ぐっと拳を握りしめていると、先輩はチッと舌打ちしてあたしと凪くんを見下ろした。


「気持ち悪い。なんで染めてんだよ」