世界中に溢れる"美しい"を、ぜんぶ。


「リンちゃんは何の競技をしているの?」
「あたしは走高跳(はしりたかとび)だよ」

問いに答えると、凪くんはニコリと笑った。

「背面跳びするやつだ」
「うん、それ。よく知ってるね。大抵の人は、棒高跳や走幅跳とごっちゃになるのに」


感心してうなずくと、凪くんは口許に笑みを浮かべた。


「運動できない代わりに、勉強はしているから。今日みたいに調子がいい日は、本もたくさん読むようにしているし。世界中の綺麗なものを、いつも本で読んで想像してる」


「でも」と凪くんは続ける。


「いくら本で読んでも、実物には敵わないとは思うんだけどね。僕は本を読んで、どんなものなのか想像することしかできないから、本当の綺麗さを見ることはほぼできないに等しい。それが、とっても悔しいんだ」