「不二君、今でも自分の事、エチレンガスだと思う?」

倫子が家の玄関のドアノブに手をかけたところで振り向いて僕に聞いた。

「思わないよ」

それを聞いて、倫子はほっとした表情で微笑んだ。

その時、ドアが開いて、倫子の父親が出てきて、僕の胸ぐらをつかんだ。

「お前か。昼間から、うちの娘を連れ回して、傷害事件に巻き込んだのは」

「違うの。お父さん、聞いて」

「お前は黙ってなさい」

僕は土下座して叫んだ。

「本当にすみませんでした。でも、倫子さんが何か話そうとしている時は、ちゃんと話を聞いてあげてください。それだけ、お願いします」

しばらく沈黙が続いた後、ドアが閉まる音が響いた。