その頃、
「落とせれば、わが軍の勝ちだというのに……」
畔沼はじいやと話しあっていた。
「拒絶反応が出る程、お見合いに苦しみ、ひたすらに苦痛を訴えているミャクミャクには驚いた。この俺でも、嫌だと言うのか……」
「一体、なぜなのでしょう……ミャクミャク星人には無理な顔だったのでしょうか」
「じいやなら良いというのか!?」
「い、いえ……」
じいやがしわしわの顔の、皺がピンと伸びるくらい目を見開いた。
いつもなら小言のひとつ二つ言うはずの畔沼だが、じいやの態度などまるで気にも留める余裕もない。廊下をうろうろしながら、彼女が浴室から出てくるのを待った。
「嫌われ者であるこの家がのし上がるためにも、あらゆるコネ、他への脅威になるようなものが必要だ……今まで、女性の相手に苦労したためしがない。
なのに、なぜだ……なぜ、俺を見ただけで吐く!! 俺が話すと震える!! 屈辱だ……っ」
「屈辱ってそんな理不尽な。他人にはそれぞれ、生理的に無理な物があるのですよ」
「お風呂あがりましたー! ありがとうございま……?」
す、と言おうとした彼女が廊下で固まる。
浴室から出てきたらしい。
同じように、畔沼たちも固まった。
「あぁっ! そうだ! 家とお話しなきゃ!!すっかり馴染んで忘れてたぁ!!!」
「うわぁっ!! なんだ、そのインクの模様は!!! 文字!? 身体を洗ったんじゃないのか!!」
「汚いって書いたんですよ! 私、汚いですし、みんな、似合わないって言っています。
私も、そうだと思うので。このお見合いもお断りするんで。恋愛とか、そういうのではなく、従業員とかでお願いします」
「なにを、言っている……」
「だって見た事がありますか? 直接的に、私が汚くないと言う人を知っていますか? 目の前に出せますか? いないでしょう? 既に現時点で評判が悪い私に、構うのは嫌味にしかとれません。それでは」



