前期試験が終わった最初の土曜日の朝、一番気に入っていたお揃いのコーヒーカップの片方を割ってしまった。代官山の雑貨店で洋輔と2人でみつけた思い出のコーヒーカップ。
「馬鹿だな。よりによってこのカップを割ることはないだろう。ったく、この頃お前ドジだよな」
 と洋輔が言った。彼は最近そういう言い方をするようになった。私が悪いのはわかっている。大切なカップだったのだから。でも、せめて怪我しなかったか、ぐらいの気遣いをしてほしかった。私は謝らなかった。彼は私が素直に謝らないことに腹を立てたのか、その日一言も口を聞かなかった。
 急にそのカップがつまらない物に思えて来た。気に入っていたのは彼だけで、私は彼に合わせて気に入ったフリをしていただけだと。今日は授業が休みだから、違うカップを、今度は私自身のためだけに買いに行こうと考えていた。