目が覚めた。
 朝になっていた。カーテンから光が差し込んでいる。いつの間にか眠ってしまっていた。
 昨夜の記憶が微かに蘇った途端に、私は飛び起きた。隣りには誰も居ない。夢だったのかと戸惑った。テーブルの上の紙きれで夢ではないことがわかった。お札。
 彼はまだ全然乾いていないだろうジャケットを着て部屋を出て行ったのだ。家に帰ったのか、それとも真っ直ぐ大学へ? いずれにしろ奥さんには外泊したことをなんと言い訳するのだろう。
 横になったまま体温を計った。お札に手を伸ばして数えた。1万円札2枚と千円札10枚。今日は随分細かいのね。約束もせずに会ったから準備してなかったんだ。
 熱がある。38度。授業は欠席しよう。どうせ自由出席だから。
 目を閉じると、玄関から音がした。先生は私の部屋の鍵を持っていない。鍵をかけて出て行ったようだけど、その鍵はどうしたかな。戸惑っていると部屋に入って来たのは洋輔だった。
「鍵が玄関に落ちていたぞ。どうしたんだ」
 あ、そうか、鍵をかけた後ドアポストから中に落としたんだわね。
「どうした? 顔が赤いぞ。熱か?」
 洋輔はベッドまで歩いて来て私の額に触れた。
「お帰りなさい。38度だった」
「うわ、高いな。大丈夫か?」
「昨日友達が看病に来てくれてたの。見送って鍵をかけてからの記憶が無くて」
 熱があるのは嘘ではない。誤魔化せて助かった。