淳一のチャリのワッカがぐんにゃり曲がって溶接のところからポッキリ折れていた。車の中でスポークを全部取ってしまったのだろう、針ねずみのようになったハブをジャラジャラとぶら下げていた。
 2年間ポタリングに使っていたリムを、突然ロードで酷使したのだから寿命が縮まったんだな。それにしてもキャスケットも無しに怪我が肩のかすり傷だけとはね。
「もうだめだって思わなかったの?」
「今日は2回こけたんですよ。だから、またかって感じで大したことないっすよ」
 いつもの寝ぼけたような調子で言う。
 淳一は洋輔や私と同い歳だけど、自転車に夢中で2年ダブっている。だから彼は今2年生。先輩扱いしてほしくないのにな。私は部員ではないのだし。
 洋輔はフレームだけになった淳一のチャリを担いで駐車場から部室棟までの道を歩いている。
「素直にコケたから良かったんだな。見事にきれいにコケたもんなぁ。あのスピードで変に避けようとしたり腕なんかついてたりしたら、大怪我してたぜ」
「でも、こんな細い体でよくこれだけの怪我で済んだわね」
 と言いながら、私は淳一の腕に触れた。淳一がチラリと洋輔のほうを見た。気にしてる。洋輔の表情は変わらない。
「三浦さん、寒くないですか。ナマ脚じゃないっすか」
 淳一がジョギングパンツ姿の私の脚を見て言う。視線が気持ち良い。
「ううん、寒くない。久し振りの大事件に興奮してるから」
 私は実は淳一が好きだ。だから洋輔とは別れてしまいたい。乗り換えたいわけではない。淳一に対して好きだと思う気持ちを単なるきっかけとして、洋輔と別れる気持ちに勢いを付けたいだけ。
「淳一、今日は俺んちに泊まってけ。家まで帰るの大変だろ。その怪我見たら親御さんも心配するだろうし」
「ありがとうございます。お言葉に甘えます」
 てことは今日は私独りで居られるのね。ほっ。