「2ヶ月と11日ですよ」
 白髪の老医師の声が遠くから響く。
「まぁ、生まれるのは来年の春ですけど、学生さんならお産みになれないでしょう」
「はい」
 洋輔の子ではない。横山先生の子。あの雨の日の。洋輔も先生も遠く離れてしまった今になってこんな…。私の罪への全ての罰が私自身に下る。
「お願い出来ますか」
 私は顔を上げることが出来なかった。そんな風景に慣れているのか、老医師は机の引き出しから紙を取り出した。
「これに書き込んで当日持っておいで。前の日に電話するのを忘れないように。注意するべきことを教えるから。あ、1週間以内にね。早くしないと4ヶ月目に差し掛かりますよ」

 私の体の中の小さな宇宙で1つの天体が破壊された。
 私の体が生み出した天体は粉々になって、
 四次元のどこかに排出された。
 痛みは徐々に薄らいで、
 私の体はもう一度巡る。
 男は外界で立ち竦むだけだ。
 女は偉大な宇宙だ。

 熱が出て咳が酷い。咳をするたびに胸が突き上げるように痛い。全身麻酔をかけると風邪を引きやすいから気を付けてと医師が言っていたのに、油断した。1週間寝込んだ。
 洋輔と同じ授業を取っていた。出席重視だから2人してザボりたい気持ちを励まし合いながら、今まで一度も欠席しなかった。そんな授業に私が居ないことに洋輔は気付くだろうか。私が洋輔を避けて出席しないとでも思うかな。

 なんて浮ついた生活を送っているんだろう。大学生活4年間、全く地に足がついてなかった。私はちゃんとした大人になれるんだろうか。幸せな人生を送れるんだろうか。
 いつまでも世界の片隅を彷徨ったまま、そうして死んで行くんだろうな。

               完