そして今日は小雨降る5月初めの土曜日。

つぐみと言葉を交わせる、初めての日。

白い壁に赤い屋根、玄関ポーチにはパンジーとスノーボールの花。

深緑の重い扉の前に、俺は傘もささずに立っている。

表札には山本健太郎、真理子、そしてつぐみの文字。

俺はこれから「愛」を知らない男として、つぐみの前に現れる。

そしてつぐみが俺に「愛」を与えたくなるような、魔法をかける。

これからつぐみを賭けた俺の試合が始まる。

息を胸いっぱいに吸い込み、来客を告げるインターホンを鳴らした。

やっと俺はつぐみの家に、足を踏み入れることを許されたのだ。

ここまできたら、あとはつぐみを手に入れるだけだ。

就職が決まり、この家を出るまでに、つぐみを落とす。

ルックスには自信あるが、そんなものはつぐみにとっては何の意味もないだろう。

まずは俺が主導権を握り、気のないフリをしてつぐみの警戒心を解く。

少しづつ物理的に距離を縮め、つぐみの母性本能を刺激する。

そしてつぐみの心を十分に引きつけ、必ずその全てを俺のものにする。

はたして俺の行動は「愛」と呼ぶべきものなのか・・・それは俺にもわからない。

今はまだ、つぐみへのこの想いを「愛」などという定義に当てはめたくない。

・・・でもこれだけは言える。

これまでも、この先も、つぐみ、君をこんなにも求めている男は俺以外にいないと。







「まあまあ。初めまして。雨の中大変だったわね。狭い家だけどどうぞ上がって!」

「初めまして。鹿内弘毅と申します。これからお世話になります。ご迷惑でしょうがどうぞよろしくお願いします。」

俺はそう言って深くお辞儀をした。

「迷惑だなんて全然思ってないわ。これからここを第ニの我が家だと思って、くつろいでね。」

ピンクの水玉エプロンを付けた美しい女性が、俺を玄関先で出迎えてくれた。

この人がつぐみの母親である真理子さんだ。

俺はリビングに通され、テーブルに備え付けの椅子に座るよう促された。

「そこ、いつも信二君が遊びにきた時の定位置なのよ。

信二君とはどれくらいのお付き合いなの?」

真理子さんが俺の前にお茶とカントリーマウムの入った菓子皿を置きながらそう尋ねた。

「信二とは高校の時に同じクラスで、野球部でもチームメイトとして一緒に汗を流した仲です。

信二の家にもよくお邪魔させてもらっていて、その関係でこちらの家の話も少しだけ聞かせてもらっていました。」

「あらそう!お義母さん、なんて言ってた?」

真理子さんは姑の言葉が気になるようだ。

「はい。健太郎さんも真理子さんもつぐみちゃんも、皆明るくて優しくていい人だから安心しなさい、と仰られていました。」

「そう!」

真理子さんはひまわりのような笑顔で嬉しそうに笑った。

「えっと・・・つぐみのことは、・・・何か聞いてる?」

「はい。男が嫌いなんですよね?」

「そうなの。だからアナタにも最初は嫌な思いをさせてしまうかも。先に謝っておくわ。ごめんなさいね。」

「いえ。」

「今、つぐみを呼ぶわね。」

真理子さんは階段の下に立つと、大きな声で叫んだ。

「つぐみー!鹿内さんいらっしゃったわよー!ちょっと降りてらっしゃい!」




いま、つぐみの部屋の扉が開かれた。

ゆっくりと階段を降りてくるつぐみの足音が聞こえてくる。

そしてつぐみの姿が俺の目に映り込む。











はじめまして。















My Angel・・・











fin