高校2年生の春のこと。
私、春名一桜はクラス替えの名簿の前に立っていた。ああ、また一人だ。そう思った。1年生の時のクラスでやっとできた友達の咲結実ともクラスが離れて、これからの学校生活に不安を感じ始めていた。
教室に入ったら、昨年から仲の良かった人達同士などで既にグループは固まっていた。私は人見知りだし、友達がとても少ないから人脈も狭い。だから、自分から話しかけて既にできているグループに入ることなんてできるわけがないのだ。
毎年のことだから大丈夫、きっと今までみたいにどうにかなる‥と思い聞かせていたが、やはり自分の心は苦しかった。

それから数週間が経った。もちろん、友達はできていない。高校で唯一の友達である咲結実には仲良しができたようで、一緒に帰る日も少なくなった。
ある日の夕方、そんな日々に絶望を感じて、私はいつも悲しいことや嬉しいこと、困ったことがあったときに訪れる一本の桜の木に来ていた。
何かを口に出して話しかけるわけでもないけれど、桜の木に寄りかかっていると、自然と涙がこぼれていた。
これからどうしよう‥。私はただ普通の学校生活を送りたいだけなのになんでうまくいかないんだろう‥。
そう思っていた時だった。
「どうして泣いてるの?」
同い年くらいに見える少年が現れた。
「もうすぐ暗くなっちゃうよ?」
「誰‥?」
思わず私が聞くと、彼は息吹と名乗った。
「君は?」
と聞かれたから、春名一桜ですと言った。
お互い春っぽい名前だね、と彼はにこにこしながら言っていた。
彼もよくここに来るらしく、私が悩んでいる理由を話すと親身に聞いてくれて、なんだか心が軽くなった気がした。
「僕はここに来ると落ち着くんだ。」
息吹はそう話した。私と同じだ。
それから少しだけ話をしたあと、
「また会いたいな。」
と私が言うと
「きっと会えるよ。」
と彼は言った。
また会える日を願って、私は家路を辿った。