「お父さん!」
「はぁ?」
「莉世のことだから、お父さんみたいって今頃は……思ってるよ」
「そんなわけ……」
言いかけて口をつぐむ。
あり得る。というか、それしかあり得ない。
莉世にただの世話焼きなお父さんみたいな人だと思われているのが、容易に想像できる。
「あるだろー。あるというか、それ以外ないよね」
俺の脳内をそっくりそのまま言葉にした兄貴は、憐れむように俺を見ている。
「泉、がんばれ!」
胸の前で演技がかったガッツポーズを作って、眉をわざとらしくハの字にしている。
「兄貴に言われたくない」
「なんで?莉世がお前の気持ちに気づかないのは、俺のせいじゃないからね」
兄貴はへらへらとしていた表情を、急に真顔に変えた。
確かに、莉世が兄貴のことを好きなのと、俺の気持ちに気づいてもらえないっていうのは別問題だ。
自分が情けなくて仕方ないけど、幼馴染の今の位置をなくしたくない。
幼馴染で、好きな人の弟で、好きな人に似てる。
莉世にとって俺の価値なんてそれ以外にあるように思えない。

