キミの恋のはじまりは


「ちょっと、まって」

「……帰る」

「莉世、こっちちゃんと見て」

「…やだ」



……見れないよ。

今、もううまく笑えてないのがわかる。

泉に見られたくない。こんな気持ち、泉に知られたくない。


振り向かずにいれば、掴まれた腕にさらに力が加わって、体が反転させられ顔を覗き込まれる。

私の顔を見た泉は「ああ、もう……」と苦しそうに呟いた。


……困らせた。呆れられた。

だから嫌だったのに。


そう思った。


なのに。



「…ごめん、そんな顔させて」



ふんわりとあたたかく包み込むように背中に腕が回され、頭のてっぺんにのった泉の顎の重みに涙が出そうになる。



「もうそんな顔させないって誓ったのに」



詰まる声で搾り出すようにつぶやいた泉は体を離して、私の手を引いて歩き出す。それにつられて足が動き出してしまうので、その背中に抵抗を投げる。



「~っ、ひとりで帰る」

「だーめ」

「やだやだ。帰るの」



駄々っ子のように首を横に振ると、泉は振り返りながら切なそうな視線を私に向けた。



「……いま帰すの、こわい。お願いだから一緒にいて」

「……なにが」



こわいの?そう聞こうと思ったのに、泉は私に背を向けてまた歩き出してしまう。そうなれば、掴まれた手がじんじんして振りほどけない。