キミの恋のはじまりは




電車を降りて家までの帰り道。



「さむっ!!」



あまり人通りがないのをいいことに、大きく独り言を言ってみる。

マフラーを口元に引き上げて、冷たい風に耐える。



「さっむい、さむい~」



また声に出して言ってみる。

吐き出した息が白くなって夜空に溶ける。


うん、少し気が紛れる。


何か違うことを考えていないと、さっきの光景が浮かんできて押しつぶされそうだ。



……もしかしたら泉じゃないかもしれない。顔を見たわけじゃないし……。


自分に都合のいいように考えて、ぷるぷると頭を振る。


……大丈夫、泉に直接聞けば、きっとちゃんと教えてくれる。

でも、聞いてどうする?

……わからない。

私の中に溜まっているこの重い気持ち。

泉には知られたくない。

きっと、困らせてしまう。

……幻滅されちゃうかもしれない。そんなのは嫌だよ……。


私の黒い気持ちの中に、さっき泉がもらってた鮮やかな色の紙袋が浮かぶ。

毎年、バレンタインの時期だけ、あのターミナル駅にあるモールに期間限定で出店しているチョコレート専門店のもの。

去年は私も自分用に買いに行ったから、よく覚えてる。

私、あのお店のチョコ、濃い甘さが大好きだったのになあ…。もう、あの店のチョコ、食べないだろうな…。



小さくため息を付けば、今度はさっき見た楽しそうな彼女の笑顔が瞼の奥に浮かんでくる。


『でも好きなの。諦めきれない』


あの時、花島さんの言葉は凛とした強さがあった。

あの人はいつでも前向きで、一生懸命。その真っ直ぐさが眩しすぎて、目を見ることができなかった。


……私とは全然違う。


気が付けば視線は自分の足先に落ちていた。静かな夜道に私の靴音が寂しく落ちていく。



「ばかばかばか。泉のばか。なんでもらっちゃうんだよぉ…」



しかも、花島さんのだけもらうって…。

全部、全部、ぜーんぶ、もらって欲しくなかった。

私のだけにして欲しかったよ…。