キミの恋のはじまりは


葉山さんのおうちを出る頃には、もうすっかり日も暮れていた。

愛用のアイス屋さんのあるターミナル駅からすぐのところに葉山さんの家はあるので、あまり寒さに触れずに駅までたどり着ける。

駅の改札前まで来て、真冬の冷たい風に首を縮めて、あっ、と気がついた。



「葉山さんの家にマフラー忘れちゃった!」

「え、取りに行く?」

「とりあえず電話してみる」



スマホを取り出し電話すると、葉山さんが駅まで届けてくれるというので、そのまま待つことにした。

真由ちゃんには先に帰ってもらってひとりで改札前で待っていると、すぐに葉山さんがあらわれた。



「すみません、寒いのに」

「いいよ。はい、マフラー」



手を出して受け取ろうとすると、葉山さんの手にあったマフラーはするりと私の頭上を通って、首元をふんわりと包み込んだ。



「あ、ありがとうございます」

「莉世ちゃん風邪ひかせたら、片桐にあわせる顔がないからね」



葉山さんは優しく笑って、じゃぁ気をつけてねと帰って行った。


……葉山さんってなんか潤くんに似ている気がする。


周囲を明るくする雰囲気とか、自然と人の心をほぐすようなところとか……。

だからかなぁ、泉と妙に気のあった会話をするのもんね。

そんなこと言ったら泉はすごく嫌がるだろうなぁ……。


脳裏に泉のしかめっ面が浮かべば、ふふっと頬が緩む。


声聞きたいなぁ……。もう部活終わったかなぁ……。


そんなことを思いながら、改札を通ってホームで電車を待っていると、見覚えのある人がいた。


……あ、花島さん?


少し離れたところに、艶やかなボブヘアの花島さんが白い息を楽しそうに弾ませながらが誰かと話していた。

花島さんの話しているその人は私に背を向けているから顔は見えない。


でも。


わかる。わかってしまう。



………間違えるはずない。