キミの恋のはじまりは

「兄貴なら仕方がないって、俺を兄貴の代わりにしてくれたらいいのにってずっと思ってた」



泉はそこで言葉を切って私をさらに抱き寄せると、呼吸を整えるように深く息をついた。



「でも、それ嘘だわ。本当は、兄貴だって無理。莉世は誰にも渡したくない。俺だけ見てほしい」



シャツ越しに伝わってくる泉の体温が温かすぎて泣きたくなる。

泉の腕の中で呼吸さえもままならないほど固まっている私にゆっくりと言い聞かせるように、けれどはっきりとその言葉は優しい響いた。



「莉世が好きだ」



その言葉が鼓膜を震わせ、心に届けば感じたことのない気持ちに息が詰まった。



「子どものころから、俺ん中、莉世しかいない。ずっと莉世だけ。だから、お願い。俺にしてよ。俺でいいじゃん」



私の髪に顔を埋めるように寄せて、余裕のない声を聞かせる。

間近に聞こえる泉の心臓の音だって、飛び出してきそうなほど忙しない。


……お願い、なんて、そんなの。


いつもの泉からは想像できない切迫詰まったような所在なさげな声が胸の奥に沁みてくる。