「今日、ありがとう」
隣にいる泉を見上げる。
泉の街灯に照らされた瞳がかすかに揺れたように見えた。
たくさんもらった優しさがいつでもほんとは嬉しかったこと、ちゃんと伝えたい。
いつも素直になれない私だけど、今日は少しだけ言えるような気がした。
あの時『おいで』って伸ばしてくれた手が、その表情が、その染み入るような声が、私の全身を駆け巡って、零せない気持ちが形になってくれたらいいなと思う。
「泉のおかげで、今日すごく楽しかったよ」
「…俺のおかげ?」
泉は一瞬、苦い薬でも飲み込んだかのように眉を寄せた。けれど、すぐになんとも言えない表情となって私を見つめる。
胸の奥に灯る気持ちを確かめながら、こくりと笑顔で頷いた。
そんな私をじっと見つめていた泉はさらにいいようのない顔になり、想いを整えるかのように深く息を吐き出した。
「うん、泉のおかげ。今度は私がなにかお礼しなくちゃ。なんかご馳走するよ?」
いい終わるとほぼ同時に、こてんっと泉の頭が傾いてその前髪が私の耳を掠めた。
右肩に泉の頭の重さを感じれば、いつものシャボンの香りが濃くなって呼吸が詰まった。

