キミの恋のはじまりは

男の子達は空になった筆洗いバケツをぶらぶらと揺らして、肩を揺らして笑っている。



『うわぁ、きたね～』

『片桐、かからなくてよかったなぁ～』



ねっとりとしたまとわりつくような笑い声を、泉の低い声が遮った。



『……ふざけんなよ……』



瞬間、泉が男の子の胸元に手を伸ばすと、がたんっとバケツが廊下に落ちて大きな音をたてた。



『な、なにすんだよ！』



締め上げられている男の子が苦しそうに言えば、もう一人の男の子が泉を引き離そうとその腕に手を掛けようとした。

けれど、泉が片方の手だけでそれを押しのければ、その子は簡単に尻もちをついて廊下に転がった。




『や、やめろよ～、冗談だろ～』

『へぇー、冗談なんだ？こんなにぬれてんのに？』

『そ、そうだよ、わざとじゃないよ……』

『……んなわけ、ないだろっ！！』




怯える目で泉を見ている男の子の言葉に、泉は口元を歪めて、掴んだ手を勢いよく振って、その人を廊下に投げ転がした。