キミの恋のはじまりは



遠藤と呼ばれたその彼は「えー?またまたぁ」と戯けてみせた。

泉はそれを無視すると、私の方へ煙たそうに目を眇めて視線を向けた。



「……莉世、帰んでしょ。早く行きなよ」


……言われるまでもなく、帰る。


むしろ、早く帰りたいって思ってた。こんなところにいたくない。

なのに、なんで私、こんなに手のひら握り締めちゃってるんだろう。


いま、口を開いたら、隠しておきたいものが溢れてしまいそうだ。でも、それがなんなのか、私にもわからないから余計にこわい。


だから、黙ったまま、一歩踏み出そうとすると「あ、ダメだよ」と潤くんの声が落ちてきて、私を制する。



「さっき、夕飯作ってくれるって言ったじゃん」

「…へ?」



思わず間抜けな声を出した私に構うことなく、潤くんはにこやかに続けた。



「コンビニ飯って味気ないから俺やなんだよね~」

「え、私、そんな、」

「助かるな~、ねぇ、泉?」

「俺は別に、」

「ほらほら、早くみんなも行こうよ」

「ちょっ、ま、」



くいっと腕を引かれれば、私の体はつられる様に潤くんのあとを追って動き出してしまって、逃げられなくなった。