「もしもし、カオル?」


男がゆっくりと瞬きをする。


「え?今そっちに居るの?入れ違いになったのか…」


私がカオルと電話をしている最中に、男は手に持っていたビニール傘を私の肩にかける。


「やっぱりやる、風邪引くなよ」


男は電話の邪魔をしないように小声で伝えると、私の止める声も聞かずに歩き出した。

顔は怖かったけど、良い人なのか…?

止むことのない雨に打たれながら、小さくなる男の背中を見つめていた。

ほのかに残った男の甘い香りは、雨の匂いにあっさりとかき消された。

男が完全に見えなくなってから、私はまた元来た道を戻り病院へと向かう。

傘を貰ったが、その前に思いっきり濡れてしまったため病院内に入るのを躊躇っていると、カオルが小走りで外まで迎えに来てくれる。


「綺月、何でこんな濡れてんだよ」

「病院出たら雨降り出しちゃって」


カオルは羽織ってた薄めのカーディガンを私に着せると、手にしている傘に目が入る。