「…本当に、誰?」


私は傘と男の顔を交互に見て、つい口から零れる。


「傘無いならやるよ」


切れ長の目をした男は、自分が手にしているビニール傘を私に差し出す。


「これ私にあげたらあなたどうするんですか?」


見た感じ男は傘一つしか持っておらず、通りすがりの私に傘を渡したらこの後男は濡れて歩くつもりなのだろうか。

そんなことをして貰う道理は無い。


「濡れて帰るだけだ」

「余計に貰えないです、あなたの方が風邪引きます」


私は差し出された傘を男に突き返す。


「別にいつも濡れて帰ってる、今日はたまたま持って来ただけだ」

「だったら尚更たまたま持ってきた日くらいちゃんと差して下さい。
それに風邪引いてから私のせいにされるの嫌ですし」

「風邪引いても責めたりしねぇよ」


男は面倒くさそうに息を吐いた。