そんな中、屋上を勢いよく飛び出した私はそのまま病院を出て意味もなく歩いていた。

急に降り始めた雨に濡れながら携帯を何度も耳に当てる。


「お願い、出て」


私は何度かけても電話に出ないカオルに不安になる。

もしかしたらカオルは杏樹って人のことを許したのかもしれない。

そうなったら私は何も言えなくなる。

お願いだから、電話に出て。

次第に強くなる雨が、私の不安を倍増させる。

その時、急に雨が自分にだけ当たらくなる。

私は反射的に上を向くとビニール傘が見えて、慌てて振り返った。


「…誰?」


そこには知らない男が立っていた。

男は何も言わず、ビニール傘を私のほうに向けて濡れないようにしてくれている。


「雨の中歩いてると風邪引くぞ」


男はそう言った。

怖い顔に似合わず、男からは女の人が付けそうな甘い香水の匂いがした。