もうその言葉だけで十分なのに、綺月は俺が欲しかった言葉を最後に贈り物のようにくれた。


「大好き」


…俺は、ずっと、愛されたかった。

愛の無いあの家を出たのは、これ以上冷め続けたくなかったからだ。

毎日毎日求めてくれる女を抱いたのは、身体だけでも自分を欲してくれるのなら十分だと思っていたからだ。

Againを手放したくないのは、あの場所もAgainのみんなのことも、俺が愛していたからだ。


"ここにいなよ、海斗"


美月にそう言われて、初めてここに居たいと思えたからだ。


「Againが無くなっても、どんなに離れても、私もカオルもみーんな、海斗のことが大好き」


その言葉で綺月は俺の弱さが何なのか最初から気付いていたと確信した。

やっと止まった涙がまた、一筋頬を伝う。

その涙を乱暴に拭った。


「…気持ち悪ぃ」


いつもの減らず口でそう答えた。

だけど、今までで一番優しい口調だったことに気付いた綺月が吹き出すように笑みを零した。

ふと我に返ると、綺月はわざわざ"大"を付けて好きだと言ったことに段々と恥ずかしくなってきたのか、「友達として!だからね」と付け加える。

俺はすぐにいつもの刺々しい口調に戻し、「んなことは分かってる!」と答えた。

いつも通りの態度に、綺月はあからさまに安堵して笑顔を俺に向ける。

やっぱりカオルには勿体ねぇな。

俺はそう心の中で呟いた。