「なんだ、もう来てたのか」


杏樹の背後から聡の声が聞こえ、聡は扉付近で立ち止まる杏樹の背中を無理矢理押した。

若干ふらつきながら部屋に踏み入れると、杏樹は気まずそうな顔で目を逸らした。


「杏樹がなんでここに…」

「俺が呼んだんだよ」


聡は寝転がってソファーを占領する海斗の足を蹴り、海斗は渋々起き上がると場所を移動した。

その空いたソファーに聡が座り、自分の隣をポンポンと叩くと杏樹に目で座れと訴える。

立ち尽くしたままの杏樹は意を決して聡の隣に座る。

杏樹は複雑な顔で黙りこみ、俺達もそんな杏樹に何を言うべきか迷い、お互い気まずい沈黙が流れる。

その沈黙を先に破ったのは、杏樹だった。

杏樹は突然俺達に頭を下げる。


「本当に、すまない」


俺達が杏樹と出会ってから今まで、杏樹が誰かに頭を下げるところなんて見たことがなかった。