人が行き交う駅前で、ほのかに甘い香りがした。
どこか嗅いだことのある懐かしい匂いだった。
数歩歩いたところで、「あっ」と気付いた。
慌てて振り向いた時、見覚えのあるシルエットに思わず足が元来た道をひき返していた。
見間違えるわけが無い。
強くてカッコ良いその背中を必死で追いかけた。
気付くと駅前からかなり離れて、まるで手招きされたかのように人通りの少ない路地に来ていた。
角を曲がり完全に人が誰もいない場所に来た時、後を追っていたはずの男の姿はもう無かった。
その瞬間、脳が揺れるほどの強い衝撃が頭に響き、気付いたら地面に叩きつけられていた。
グラグラと歪む視界の中、光が消え誰かが影を作る。
「頼むから俺のために死んでくれ」
震えるような声が耳に届いた瞬間、ブチッと消え真っ暗な画面を映すテレビのように、雪希の視界がシャットアウトされた。
その男の声は聴いたことのない声だった。
でもあの背中は確実に"あの人"だったんだ。


