「嫌なことは嫌って言うようになったし、おかしいことはおかしいって顔をするようになった。
綺月はこんな表情もするようになったんだって、もう高校生なのに今更気付いたわ」


困ったように笑ってカオルを見る。

いつもつけている怖い仮面が徐々に剥がれていくのは、仕事用の正装服を着ていないからだろうか。


「あなた、綺月と付き合ってるのよね」

「はい」


俺は即答で返事をする。


「…そう」

「……は?それだけ、ですか?」


どんな事を言われても、綺月を手放す気はないと断固拒否する気持ちで身構えていたのに、綺月の母親は頷くだけだった。


「俺、両親死んで頼れる身寄りとかいないし、中卒だし、暴走族だし…」

「そうね、すぐに綺月とはもう会わないでって言っちゃうわ」

「じゃあなんで…」

「仕方ないじゃない、綺月を助けてくれたのはあなたなんだから」


そう言うと、まるで我が子に触るようにカオルの頭を撫でた。

綺月と同じように優しく丁寧に。