そして、私達を目にも入れず桜の元へ近寄る。

桜が一歩一歩と後退りあっという間に壁まで追いやられると、杏樹が拳を振り上げ桜の顔面めがけて振り下ろす。


「っは…」


杏樹の振り上げた拳は桜の顔ギリギリを通って壁に打ち付けられた。

硬い壁が砕かれ、ボロボロと床に残骸が落ちる。

それと一緒に杏樹の手からポタポタと血が垂れ落ちる。

殴られると思った桜は、恐怖で力が抜けその場にしゃがみ込む。

上手く呼吸が出来ないのか過呼吸のように短い息を何度も無様に吐いていた。


「勝手なことをするな」


血に染まる拳を気にもとめずに、座り込む桜に向かって吐き捨てる。


「お前と手を組んだのは、お前が幸人に執着してあまりにも可哀想な女だったからだ」


その言葉に桜がやったことは杏樹の指示ではないことが分かる。

桜は顔を見上げ杏樹の顔を見る。