触られながら綺月は気絶する前の記憶を思い返していた。

傘をくれた男に会って、傘を返して、その後…


「もしかして、あの男が杏樹?」

「…私も実際に会ったのは初めてで写真でしか見たこと無かったけど、私達が今訳の分からない場所に連れて来られてるってことは多分あの男が杏樹だと思う」


綺月は立ち上がると、一つしかないドアのドアノブに手をかけて、勢いよく回すが当然鍵が閉まっていた。

この部屋に窓は一つも無く、鞄も手元には無い。

今が何時で、気絶させられて何時間眠っていたのかが分からない。

雨で濡れた制服が物凄く冷たくて、綺月は身体を震わせる。

寒くて震えているのか、それとも怖くて震えているのか今は混乱しすぎて分からない。


「私が傘なんて返そうとしたから菜穂まで巻き込んじゃった…ごめん…」

「そんなの仕方ないよ、誰もその男が杏樹だとは思わない」


杏樹の顔も、名前さえもつい最近知ったばかりで判断なんてつくはずが無い。