「…あのね、わたがしの国っていうところがあるんだって」 
長いような短いような沈黙の後、急すぎる水穂の言葉に耳を疑う。
「そこにいくとね、カミサマってひとに、自分の使命を教えてもらえるんだって」
冗談だろって笑い飛ばそうとして、なのに、水穂の声があまりに真剣に聞こえて、上手く口角に力が入らなくなる。
「まさか…ほ、本気で…?」
「うん。本に書いてあったの。えと、本当かなんて分からないけどね?行きたいの。」
「その…わたがしのくに?に?」
「うん」
「カミサマって、あの神様か?」
「それは私も分からないけど。でもそのかみさま、しか思いつかない」
俺も神がいないとは思わない。でも、そいつが仮にいたとして、何億とある人間の願いを叶えたり時には罰を与えたりなんて、出来ないと思う。だってさ、神だって人間みたいなものなんだろ?
果たして客観的で正しい視点を持っているのかっていうのもあるし、その前にまず疲れちゃうじゃん。働きすぎで倒れるだろ。 

だから。

だから俺は神になんて頼っても意味ないって思ってきた。

「…信じられないよね。そりゃ」
俯いていた水穂が顔を上げる。その目が真っ直ぐに俺の目を捉える。
(きれいだ)
「信じるよ。信じるに決まってるじゃん。
だから、だから一緒に行こう」
自分の中に残る疑いから目を逸らすように食い気味に言った。
ぱっと水穂の顔が晴れる。
「うん、ありがとう」
そういって微笑む水穂はやっぱりかわいい。
吸い込まれるように見つめてしまう。
でもすぐに我に返って、照れて目を逸らす。それを見た水穂が、隣でやっぱりかわいいなぁ、と笑う。
俺も一緒になって笑う。

みえない不安を、みないでいられるように。