2人で帰るいつもの道。不意に水穂が俺を見る。
「いっちゃんはさ、将来何したいとかある?」
「俺は…」 
俺にはやりたいことなんてない。できることも多くない。好きなことはあるけど得意じゃない。だからといって努力が報われるなんて期待はもうしない。
…絶対に
「俺は、やりたいこと何にもないよ。好きなことはあるけど。でも、どうしたらいいか、自分でも分からないんだ。」
「そうなの。…うん、そっか。難しいよね、自分のしたいこと見つけるの。見つかっても仕事に出来るかと言われたら悩んじゃうし。」
「うん。」
でも、もう高校生だ。時間は過ぎる。嫌でも大人になってしまう。
「わ、たしはさ通訳の仕事をしたいの」 
俺は驚いて、水穂の目を見つめてしまう。
「あはは…そりゃ驚くよね。私すごい英語出来ないもん。だけどね、国とか言葉とか超えて人を繋げられるってすごいなって、憧れるんだ」
「…」
凄いと思った。文字通り言葉が出なくなるくらいには水穂を凄いと思った。
いつも赤点スレスレで、補修にならないために頑張ってるのだとばかり思っていた。
テスト前、毎回毎回、今回こそは満点っっ!と意気込むのも、負けず嫌いな水穂のただの強がりのギャグだとばかり思い込んでいた。
(でも、違ったんだ)
「なれるよ、通訳。水穂なら」
「うん、ありがとうね」
ちょっと照れたように笑って、でもねぇ…、と続けてくる。
「あんまり自信はないんだ。ここまで出来ないと自分でもこの夢を持っていてもいいのか、迷ってしまうの」
いくじなしだなぁ、とまたはにかむように笑い、上を向く水穂。
「大丈夫。絶対大丈夫だって!」
「うん、うん、ありがとう。やっぱり、いっちゃんは優しいね」
「…これ、お世辞じゃないからな」
湿っていく水穂の声が嫌で、つい俺は強く言葉を放り出してしまう。
「分かってるって。いっちゃんは嘘つかないもん。だからこのこと言えたんだし」
「…」
こんな時なんて言えば水穂を勇気づけられるのだろうか。分からなくて、ただ俯くしか出来ない。こういう時ばかりは自分のコミュニケーション能力を呪いたくなってしまう。