入道雲の向こう側

つい夢の余韻に浸ってしまう。
おーい、いっちゃん?と、水穂の声。
「着いた!ほら、早く行こっ?どうしたの?」
「あはは、ごめん、ぼーっとしてた」
るんるんと揺れる水穂のポニーテールを追って改札を出ると、もう山は目の前。久しぶりに見る光景。
水穂は鼻歌交じりに歩いていく。楽しそうな水穂を見ているとなんでだか俺まで楽しい気がしてくる。
大和山に来るのは小学校の遠足の時以来だ。改めて登ってみると、ファミリー向けな割には険しくて、深い森に囲まれていることに気づく。この登山道をちょっとでも出たら迷ってしまいそうだ。
よくこんな危険そうな山に遠足で行ったな、と変に関心してしまう。
「あっついね」
前を歩く水穂が振り返って笑う。腕時計は9時を指している。そういえば昨日の夜はここから一週間猛暑日が続くからと、熱中症対策についての番組が多かった。
(たしかに馬鹿にできない暑さだ)
手に持った500mlのスポーツドリンクは早くも無くなりそうだ。
2本買うべきだったろうか。そう後悔しかけた、