秘書はあらがえない気持ちを抱いて


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進一郎は家に帰ってくるなりネクタイを外し、廊下に落としていく。

そしてスーツの上着、シャツと進一郎の通った後に残され、それを俺は拾いながら後を追う。

「まったく…」

広い家に俺の溜め息だけが響く。

とても静かな家だ。

広大な敷地に立てられた豪邸は、今は主人である進一郎と俺、数人の使用人しか住んでいない。

進一郎の両親は、進一郎が大学を卒業と共に殆んどの使用人を引き連れ外国に移り住んだ。
因みに、金森家に代々使える桜井の人間、俺の両親もその中に入っている。

殆んどの使用人を連れて出た理由を、進一郎の両親曰く、『使用人は自分の稼ぎで雇うもの』とのことで…

それを聞いた進一郎は、『それなら、瑛二が何でも出来るから多くの人は必要ない。瑛二がいれば良い。』と返した。

進一郎と二人…
俺の心に、胸ときめくものがあったのは確かだ。
だが…
それだと俺が仕事に追われて潰れてしまう。

俺の不平を受け、しぶしぶ生活を維持出来る今の最低人員に落ち着いたというわけだ。

進一郎の稼ぎならもっと雇えた筈だし、ケチっているわけでもないのだが、最低人員は譲れないらしい。