「それはそうと、いったい何を揉めていたのですか?」

 私の問いかけに、跪いていた兵士たちの中から声が上がった。

「この異人が、我々を侮辱したのです」

 ゲンジに掴みかかりそうな兵士たちを、「静まりなさい」と一喝すると、私はゲンジに向き直った。

「本当ですか? ゲンジ」

「侮辱などしていない、拙者は疑問を呈したのだ。これで戦になるのか、と」

「……どういうことです?」

 問われもしないのに、一介の傭兵が作戦を批判するなど、明らかな軍律違反だった。状況によっては死罪もありうる。

 だが、ゲンジはどこまでも冷静だった。

「こんなに行軍を急いでは、到着するまでに兵が消耗してしまう。敵はもう砦の近くにまで来ているのだろう?」

「だから、行軍を急いでいるのではないのですか」

「敵がわざと攻撃を手控えているとは思われぬのか?」

「──!!」

「敵は恐らく、砦よりも先に砦への援軍──つまり我等を襲う。先に援軍を殲滅してしまえば、砦は孤立無援になる。砦に攻め入っている最中に我らに到着されては、敵は挟み撃ちなるゆえ、わざと攻撃を手控えているのだろう」

「……」

「そう考えれば、この急行軍は宜しくない。なけなしの兵を戦の前から消耗させ、無防備のまま敵の懐に飛び込ませることになる。ゆえに皆に問うたのだ、策はあるのか、と」

 たちまち、兵たちの間から罵声が飛んだ。

「異人ごときに指図されるいわれはない!」「貴様が将軍や姫君様の策に口出しするなど、百年早いわ!」「だいたいその小憎らしいへの字口は何だ?! 我らを小馬鹿にしているのか──!!」

「策の当否に生まれは関係無かろう。皆が気付いておるのか心配したゆえ、口に出したまでのこと。それにこの顔は生まれつき、悪意はござらん」

 ゲンジはなんの気負いも見せず、当然のことのように説明する。
 話の内容よりも、この落ち着き払った態度とへの字口が、兵たちの(かん)に障ったのだろう。

 この異邦の剣士は、絵に描いたように誤解される(たち)のようだった。