翌朝、私は国境のグロムス砦に向かう兵5千人を率いて、王宮を後にした。

「凛々しき馬上のお姿、戦の女神が降臨されたかと思いましたぞ」

 (くつわ)を並べて進む、ギラン将軍が声をかけてきた。
 私の斜め後を進むレイアは、将軍のおべっかに渋い顔をしている。
 
「お褒めいただいて嬉しく思います、ギラン将軍。でもそのお髭のお口に、浮ついた世辞は似合いませんよ。将軍には、兵たちに雄々しく号令する言葉を期待します」
 
 真っ赤になって口をつぐむギラン将軍の後ろで、レイアが満面の笑みで右手の親指を立てていた。

「にゃあ」

 気が付くと、ヴァールが布製の腰袋からちょこんと顔を出していた。

「目が覚めたの? ヴァール」

「にゃあ」

 ヴァールを連れて行くつもりはなかったのだけど、ヴァールは私から離れようとしなかった。困り果てていたところに、お母さまが、

「ヴァールも連れて行ってあげてはどう? この子はあなたを守っているつもりのようですよ」

 そう声をかけてくださって、ヴァールは今回の行軍に同行することになった。

 レイアからは、

「遊びに行くんじゃないのよ?!」

 なんて、ひどく怒られたけど。

 王宮からグロムス砦に続く道は、普通の行軍で4日ほどの距離になる。私たちは砦の兵たちを思って、寝る間も惜しんで急行した。

 でも、王宮を出て2日目のことだった。