「ところでよ、姫さん」

 リヴァイ王子が笑顔で、私に向き直った。  

「随分といい匂いさせてるじゃないか。俺たちにもそのお茶、いただけないかな? 邪魔者もいなくなったことだし、あらためて皆んなでお茶会しようぜ」

「え、ええ。よろこんで……」

 私はレイアに手伝ってもらって、いそいそとお茶の準備を始めた。
 さすがにこの天幕に七人分も席を用意できないので、私とレイアの寝台を隅に寄せて、敷物の上にクッションを並べて皆で車座になった。

「すみません、こんなおもてなししかできなくて……」

「何言ってんだよ姫さん。上等も上等、はるばる軍を率いてきた甲斐があるってもんだ」

 屈託のない様子のリヴァイ王子の横で、ハヴェル卿がゲンジに話しかけた。

「ところでゲンジ殿、貴公のクノイチ殿はお元気ですか?」

「……キリカに、気付いておられましたか」

「将は、気を読み、人を観るのが仕事ですからね」

 さらりと言うハヴェル卿に、ゲンジは小さく笑うと、天幕の隅に声をかけた。

「キリカ、もう良い。姿を現せ」

 すると次の瞬間、天幕の暗がりが揺らいで、気が付けばそこにキリカさんが立っていた。

「お恥ずかしい限りです、源次郎様……」

 そう言って片膝をつくキリカさんに、ゲンジは優しい声をかけた。

「致し方あるまい。今回は相手が悪い」

「まさしく……」

「お二人とも、買い被り過ぎですよ。私はリヴァイの『おまけ』のようなものですから」

 そんなゲンジたちのやり取りを見ながら、ベルナルドがそっと私に耳打ちした。

「どうやら諸王国は、自分たちの切れる『最高のカード』を切ってきたようです。それだけ姫君様の身は失えないと、彼らも気付いたのでしょう」

 リヴァイ王子、ハヴェル卿、そしてドーリア卿……。

 諸王国最強の呼び声高い三人の将だけど、アルブレヒト王子たちよりよほど親しみが感じられる。
 そして皆で囲むお茶とお茶菓子は美味しくて、リヴァイ王子やハヴェル卿のお話は、面白くて楽しかった。

 楽しく暖かなお茶会を通じて、リヴァイ王子たちは私たちの仲間になってくれた──。