「くっ」と唇を噛むアルブレヒト王子に、リヴァイ王子は嘲りを止めない。

「やんごとなき王子様方に申し上げるが、女の子には心ってものがあるんだ。心の準備ができてない相手に一方的に言い寄って、相手が困るくらいのことも分からないのか? その程度、今日び酒場の酔っ払いでも知ってるぜ」

「リヴァイ、貴様──!」

「ああ、俺の恋愛指南に礼は要らないぜ。乙女心の分からないあんたらがあまりに不憫で、ちょっとおせっかいしただけだ」

 アルブレヒト王子はリヴァイ王子に掴みかかりそうな勢いだったけど、急に顔を背けると、

「いずれこの礼はさせてもらう。覚えていろ、リヴァイ」

 そう捨て台詞を残して、席から立ち上がった。ヒサーヌ王子も険しい表情で席を立つ。 
 でも去り際、

「リアナ王女。本日はお招きいただき、ありがとうございました。無粋な連中のおかげでこのように席を立つことを心苦しく思いますが、あなたの優しさと思いやりは、このアルブレヒト、全身で受け取りました」

 そう言いながら私の前にひざまずき、私の手をとって別れのキスをした。

 心まで鳥肌を立てて、私は気付いてしまった。

 私はアルブレヒト王子が嫌いだ。
 アルブレヒト王子は私に優しい言葉をかけて、笑顔であれこれ褒めてくれるけど、この王子はいつも心の底から笑っていない。
 自分の心は覆い隠して、他人の心には無頓着。だから嫌いなんだ、と──。

 アルブレヒト王子に続いて、ヒサーヌ王子も私の手に口づけを残して、天幕を出ていった。

 二人の王子の後ろ姿を見送りながら、リヴァイ王子は軽い調子で呟いた。

「礼は要らないって言ってるのにアルブレヒトの奴、義理堅いな。まあ、どんなお返ししてくれるか期待せずに待つか」

 私はしばらくぽかんと、リヴァイ王子の顔を眺めていたけど、急に可笑しさがこみ上げてきて、口を覆って笑いをこらえるのに必死になってしまった。

「それでいいんだよ、姫さん」

 リヴァイ王子はまた私に、人懐っこい笑顔を見せた。 

「嬉しければ笑う、悲しければ泣く、腹が立てば怒る。人として当たり前のことだ。そこに王子も王女も関係ないだろ。それを無理して隠そうとするから、政治も恋もおかしくなっちまうんだ」