湯沸かしのお湯が湧いた頃、ミーリアの騎士に導かれてアルブレヒト王子とヒサーヌ王子が天幕に入ってきた。

「リアナ王女、お招きにより罷り越しました。相変わらず、ため息が出るほどのお美しさ。その美しい御姿に再びお近付きが叶い、歓喜に堪えません」 

 アルブレヒト王子は恭しく一礼した後、私の前で片膝をついて、私の右手を取って手の甲に口付けをする。

 礼に沿った一連の所作なのだけど、アルブレヒト王子に触られただけで、腕に鳥肌が立ってしまう。
 その上、手の甲にキスなんて──。

 軽く目眩(めまい)を覚えているところに、ヒサーヌ王子も声をかけてきた。

「リアナ王女、罪なお人ですね。私の目の前で他の男の口付けを手に受けるなど」

 ヒサーヌ王子は浅黒い顔を歪めて白い歯を見せると、アルブレヒト王子にならって私の手の甲に口付けした。

「やはりあなたには、戦鎧などより美しいドレスがよく似合う。このまま我が城に連れ帰ってしまいたい気分です」

 なんでこの王子たちは、私の気持ちも聞かないで、勝手に話を進めようとするのだろう──。

 レイアがわざとらしく、咳払いをした。

「王子様方、お戯れもほどほどに。この場はリアナ王女が、遠征に同行してくださるご両者に、手ずから茶を淹れて(もてな)そうと設けた席です」

 レイアは精一杯丁寧な言葉を使ったけど、聞いている私がひやりとするくらい、声が冷たい。

 アルブレヒト王子とヒサーヌ王子は一瞬鼻白んだけど、すぐに作り笑いを浮かべて、私を囲んで席についた。

 私は頭痛を感じながら、二人の王子のためにお茶を淹れて、お茶菓子を用意した──。