翌日。
 ベルナルドの予想通り、朝の会食の後から昼の会食の前後までに、いくつかの国がレオン王太子の救出に同行すると申し出てくれた。

 アルブレヒト王子のヴォスタル王国も、ヒサーヌ王子のシュクラン王国も出兵を申し出てくれたけど、

「姫君様への下心を隠そうともしないあの二人、率いる軍も役には立たないでしょう」

 ベルナルドは皮肉っぽくそう言った。

「そんな連中集めても意味がないじゃない」

 口を尖らせるレイアに、

「いや、これで良いのです」

 ベルナルドは涼しい顔で説明を始める。

「本命はロズモンド領に潜入する私たちで、同行する軍は敵の注意を引き付ける囮にすぎない。ならば愚直に敵に突進するような戦意溢れる軍より、最初から逃げ腰の、やる気のない軍の方が都合がいい」

「……」

「諸国の軍を統轄する必要もないでしょう。それぞれが勝手に動き、軽く小競り合いをした後は、派手に逃げ回ってくれるだけでいい。ロズモンドはこちらの意図を図りかねて、当惑して攻撃を手控えるかも知れません」

 レイアは呆れた様子で肩をすくめたけど、私は逆に感心してしまった。 

「ベルナルド。以前貴方は、兵法とは騙し合いだと教えてくれましたね」

「いかにもその通りです、姫君様」

「戦いに勝つには、ときに味方を謀ることも必要なのですね。あなたの策の巡らし方は、とても勉強になります」

「ははは、姫君様は良き将帥となられる素養をお持ちだ。ミーリアの未来は安泰ですな」 

「この似非賢者! リアナに変なこと吹き込むのはやめて!!」

 顔を真っ赤にするレイアに、私もゲンジも吹き出してしまった。

 珍しく笑いをこらえながら、ゲンジはいきなり私たちに切り出した。

「実は、皆に伝えたいことがござる」

「なんですか、ゲンジ?」

「拙者の伝手(つて)で、今回の潜入に同行させる者を一人呼び寄せた。このような潜入行には、必ず役にたとう」