たちまち異議の声が溢れる中、お父さまは静かに手を上げて座を静まらせた。

「さて、リアナの軍師殿。貴殿がそう言われる理由を、皆にご説明いただけないだろうか」

 ベルナルドはお父さまに恭しく一礼すると、改めて説明を始めた。

「国王陛下の思し召しにより、ご説明差し上げます。詳細は不明ですが、ロズモンド王と王太子は現在対立している模様。これは即ち、戦わずして敵国の勢力を二つに分かつ好機です」

 沸騰しかかっていた場の空気が、一気に静かになった。皆がベルナルドの言葉に耳を耳を傾けている。

「敵の罠かも知れぬではないか」 

 その声にベルナルドは、

「罠というには、王太子の立て籠もる砦の位置が遠すぎます。罠を仕掛けて我々を誘引するつもりならば、もっと軍が到達しやすい場所を示すはずです」

 確かにこんなにも北の果てでは、行軍の困難さを理由に出兵を取り止めてしまいかねない。

「それに、ロズモンドのレオン王太子は文武に優れた人物です。かつては父王の名代として全軍を指揮していたのに、ロズモンドが各国への侵攻を始めた頃から、公の場に姿を現さなくなっていました。病を噂されていましたが、父王と対立して職を解かれていたのであれば、合点がいきます」

「仮にそなたの言う通りだとして、あの使者の様子では王太子はかなり危なそうではないか。こちらが肩入れしても、共倒れということにはなりはしないか」

 その発言にベルナルドは、

「窮地にある者とは交渉が可能になります。助力の条件として、王太子にロズモンドの撤兵を誓約させることもできるでしょう。それに父王と対立する王太子を扶けることで、我々はロズモンド領に逆侵攻する大義名分を得ることになります。暴虐な父王を廃し、賢明な王太子に国を継がせるという。つまり──」

 ベルナルドは一旦言葉を切り、さらに言葉に力を込めた。

「これを機に、我々は戦いを終わらせることができるのです」
 
「……なるほど。さすがの知恵者よな、リアナの軍師殿」

 お父さまはそう言って微笑むと、居合わせる王子や貴公子たちを見渡した。

「我がミーリア王国は、ロズモンドのレオン王太子の要請を受け、王太子を扶けるため彼の地に踏み込もうと思う。ご同行いただける国はあるだろうか?」

 きらびやかな王子や貴公子たちは、無言でお互いの顔を見合わせるだけだった。