得体の知れぬ敵と、足並みの揃わない味方。不安は募るけど、諸王国からの来賓者を放っておくわけにはいかない。

 でも──。

 大陸の中央に位置するヴォスタル王国のアルブレヒト王子は、「美しい」とか「天使のごとき御姿」とか、浮ついた言葉を記憶がかすむほど言い連ねた後、サロンで私の手を取ってこう囁いた。

「リアナ姫の御神威と精強なミーリアの勇士が来たれば、憎きロズモンドを叩き潰すなど容易いこと。是非、わが妃となって、わが国にお越しいただきたい」

「……」

 ミーリアの兵士は傭兵じゃないし、私は魔法の武器じゃない。

 大陸の南のシュクラン王国のヒサーヌ王子は、気分転換に狩りでもと、私を王宮の外に誘い出してくれたのはいいけれど、自分の馬の後ろを指差して、

「古来わが国では、妻とする女子を自らの馬の背に乗せて連れ帰ったものです」

 などと言いだして、従者たちを慌てさせた。
 山の羊飼いが、村娘を無理矢理さらって妻にしてしまう風習を、聞いたことはあるけれど──。

 豪奢な服を着て、きらびやかな勲章を溢れるくらいに貼り付けた、名門の王子や貴公子たち。
 でもそのうちの誰一人、私の思いをわかってくれない。私の不安や戸惑いを、分かち合ってくれない。

 これだけの高貴な方々に囲まれながら、なぜ寂しいと感じてしまうのだろう。

 ふいに、ゲンジの言葉が耳の奥に甦った。

『姫君の想い人は、姫君の進まれる道の先に待たれていよう』

 その『想い人』は、私をこの寂しさから救い出してくれるのだろうか──。

 そんな、ある日のことだった。