ゲンジはしばらく私のことを見詰めていたけど、やがてこう答えた。

「今、王宮にお集まりの王子殿や貴公子殿等の中には、お見えにならないようですな。姫君の想い人は、姫君の進まれる道の先に待たれていよう」

「……」

「ご案じめさるな。姫君はお美しく、可憐におわす。必ずや御身の進む先に、運命(さだめ)の御方が現れよう。光の女神の導きによって」

 そう言って微笑むと、ゲンジは軽く一礼して、自室に戻って行った。

 私はゲンジを見送った後も、しばらくベンチに腰掛けたまま、彼の言葉を思い返していた。

「にゃあ」

 ヴァールが一声鳴いて、私の手を舐めた。 

「そうね、ヴァール。もう戻らなきゃ……」

 私もゆっくりとベンチを立った。
 そこでやっと、ゲンジの羽織ものをショール代わりに、肩にかけたままだったことを思い出した。

 王族の未婚の娘が男性から羽織ものを借りるなど、女官長が知ったら卒倒しかねない。二人が特別な関係にあると、自ら認めたことになるからだ。

 私は真っ赤になって、足音を忍ばせながら寝室への階段を昇って行った。