湯浴みを終えて、大勢の侍女たちに(かしず)かれて、私は王女の礼装を身に纏った。

 上質な絹糸で練り上げた純白のドレスに、大粒の真珠をはめ込んだ白銀のティアラ。ドレスにはきらきら煌めく宝飾に加えて、今回の戦勝を記念した大きな勲章が、新たに腰の上で輝いていた。

「姫君様、とてもお美しゅうございます。さあ、皆さまがお待ちかねですよ」

 私は女官長に導かれて、赤い絨毯が敷き詰められた廊下をゆっくりと歩いた。
 そう言えば、あの軍議の夜からずっと、靴は硬い鉄靴で、踏むのは冷えた石床か荒い地面だった。こんなふかふかした場所を歩くのは久しぶりだ。
 そんなことを考えていると、私の前の大きな扉が、侍従たちの手で厳かに開かれた。

 楽隊が華やかな調べを紡ぎ出すなか、私は一礼して、広い晩餐会場にゆっくりと歩み入った。

 まず、国王陛下とお妃様──お父さまとお母さまに会釈して、それから侍従長に導かれて、ゆっくりと会場を巡った。 
 
 今日の晩餐会は、名目上「グロムス砦での戦勝と、それをもたらしたリアナ王女を讃える夕べ」となっている。
 私は主賓として、皆に御挨拶をすることになる。

 それぞれのテーブルは、儀典長が抜かりなく振り分けてあって、諸王国の王子たちのテーブル、諸侯の公子たちのテーブル、諸王国からの使節たちのテーブルなどが厳然と分けられていて、そのテーブルの中でまた細かく席次が決められていた。

 私は侍従の先導で、西の大国の王子や、南の強国の宰相などに会釈して回ったのだけど──。

 何故だろう、胸がざわざわする。
 私を見る王子や公子たち、使節たちは、皆笑顔を浮かべているのだけど、目の奥がおかしな色をしていた。
 皆が皆、私を品定めして、何かの算段をしているようで──。

 頭の後ろがぐるぐるして、胸がむかむかしてくる。
 吐きそうだった。

 でも他国の王子や使節の前で口に手を当てるなんて、王女の私がそんな失礼は許されない。
 私は脂汗を浮かべながら懸命に笑顔を取り繕って、必死の思いで挨拶を続けるしかなかった。