私は戦場から少し離れた高台から、味方の兵が敵をかき乱していく様子を見ていた。

「あなたの言った通りでしたね、ベルナルド」

 私は傍らで、銀髪を風に揺らせているベルナルドに声をかけた。
 一昨日の夜、この風変わりな魔導師は、私たちにこう言ったのだった。

「敵が我々を伏撃しようとしているなら、我々はその敵を、逆に挟み撃ちにしてやりましょう。既に勝った気でいる連中ほど、罠に掛かりやすいものです」

 当然、レイアやギラン将軍は反対したけれど、

「ならばどうされる。このまままっすぐ敵の罠にはまりに行くのですか?」

 ベルナルドの言葉に言い返すことができなかった。
 
 ゲンジのおかげで、異体の人物への警戒心が和らいでいたこともあって、私たちはベルナルドの策を採った。
 騎馬隊を率いるレイアに間道を先回りさせ、砦近くの林の中に潜ませておき、本体はいかにも慌てた風情で、このまま進んだ。
 
「本当に急ぐ必要はありません。野営地での休息を長めに取って、行軍中には隊列を少し緩めましょう。敵の物見には、いかにも兵たちに疲労や不安、不満が溜まって、行軍が乱れ始めているように見えるでしょうから」 

「それではまるで、賭博師のペテンではないか」

 呆れて言うレイアに、

「いかにもペテンです。兵法とはすなわち騙し合い、うまく相手を騙せた方が勝つのです」

 ベルナルドは人の悪そうな薄笑いを浮かべて、そう答えた。
 
 ちなみにヴァールは、ベルナルドが話している間、あさっての方を向いて後ろ足で耳の後ろを掻いていた。
 まるで、「好きにしたらいいよ」とでも言いたげに。

 そして私たちは、ベルナルドの逆奇襲作戦を決行した。