その後も、二人は順調に愛を育んでいかれる。


「なあ、ロキ。おまえ、わざとやっただろう?」

「……何のことです?」


 ある日のこと。主は不機嫌そうに眉を寄せ、俺のことをじっと見つめた。


「とぼけるなよ。夜会でのこと。お前までミーナと踊る必要なかったじゃないか。俺を焚きつけるためにわざとそうしたんだろう?」

「――――バレていましたか」


 その瞬間、俺は思わず口の端を綻ばせる。


「当たり前だ。一体何年の付き合いだと思っている?」


 主はそう言ってため息を吐いた。

 少しばかり幼さの残る表情に態度。けれど、主がこういう素の部分をお見せになるのは、俺とミーナ様の前だけだ。
 普段は皇帝として、威厳に満ちた振る舞いをなさっているのを知っているだけに、些細な違いがとても嬉しい。俺は静かに頭を下げた。


「差し出がましいことをし、申し訳ございません」

「別に、怒っているわけじゃない。ミーナと踊るお前を見て、嫉妬心に駆られただけだ」

(当然です。そうなるように仕向けたのですから)


 言葉にはせずとも、主には俺の気持ちがバレバレらしい。ピンと額を弾かれた。


「全く……ロキが俺を裏切ることは無いと分かっている。だが、お前にその気がないとしても、ミーナの方は分からないだろう? もしもこの先ミーナがお前を選んだりしたら、俺は一生お前を恨むぞ」

「――――そう思うのなら、ミーナ様にきちんと気持ちをお伝えください。妃としての生活にも既に慣れたご様子ですし、これ以上、先延ばしにする必要も無いでしょう?」


 死に戻った当初ならまだしも、今のミーナ様が主から逃げることは無いだろう。『わたしに妃なんて務まらない』と謙遜したところで、既に彼女は主の妃なのだし。だからこそ、主はミーナ様に『契約妃』という役割をお与えになったのだから。


「分かってるよ。次に会った時には、ミーナに俺の気持ちを伝えるつもりだ。名実ともに俺の妃になって欲しい。ミーナだけを愛しているって」


 主はそう言って、愛し気に目を細める。
 目を瞑ると、この場にミーナ様が居るかのような心地がした。