結局、主のミーナ様断ちは長くは続かなかった。
 何やかやと理由を付け、頻繁にミーナ様に会いに行かれる。

 普段は凛々しく聡明な皇帝であっても、彼女の前では完全に恋するただの男だ。


「見てくれ、ロキ! ミーナに貰った手紙なんだ」


 これまで見たことのないような嬉しそうな笑み。俺まで胸が温かくなる。


「良かったですね。一体、どんなことが書いてあるんですか?」

「ミーナには、その日あった出来事やミーナ自身のことを書いて欲しいと伝えたんだ。書き取りの練習になるからと理由を付けて」

「……意地がお悪いですね。本当はミーナ様からの手紙が欲しいだけなのでしょう?」


 返事はないものの、幸せそうな表情がその答えを物語っている。
 とはいえ、主のことだ。本音も伝えているに違いない。


「主は本当に、ミーナ様のことがお好きなのですね」


 思わずそう呟けば、主は至極穏やかに目を細める。


「もちろん」


 見ているだけで胸焼けのしそうな甘ったるい笑み。こんなにも主に愛されるミーナ様を、俺は羨ましく思うようになっていた。