とはいえしばらく、ミーナ様へのお目通りは叶わなかった。
 代替わりに伴い、仕事が山程あるからだ。

 肝心の主も、ようやくミーナ様と再会できたというのに、貴石宮にこもって日夜仕事に明け暮れていた。


「ミーナに会いたい」


 俺以外の誰も側にいないとき、主はそんな風に本音を零す。
 とはいえ、今日はもう、急ぎの仕事は存在しない。
 けれど、それでも主がミーナ様に会うことは叶わない。ギデオン様に『金剛宮にばかリ通い過ぎだ』と苦言を呈されたからだ。


「そろそろお休みになってはいかがですか?」

「……今休んだら、蒼玉宮や紅玉宮に行くよう勧められるだろう?」


 そう言って主は唇を尖らせる。
 皇帝が忙しいのは間違いない。けれど、ミーナ様の元に通うことが出来ない時期のそれは、主自身の手によって作り上げられたものだ。他の妃の元に通わなくて済むように――――主にミーナ様以外の女性を愛するつもりは一切ない。

 そもそも、主は元々、ミーナ様を唯一の妻にと望んでいた。

 けれど、皇族が主一人だけという非常事態の中、平民の少女一人を妻に、などという希望がまかり通る筈もない。彼女の入内自体を良く思わない重鎮も多い。
 後宮に四人の妃を置くことで、主はミーナ様への負担を最小限に留めようとしている。いずれは後宮を解体したいと望んでいらっしゃるが、果たして――――


「ミーナに会いたい」


 先程と全く同じ言葉を主が呟く。
 切なげな声音。ミーナ様にも聞かせてやりたいと心から思う。


「ミーナも俺に会いたいと思ってくれているだろうか?」


 なんでも主は、ミーナ様に直接想いを告げたわけではないらしい。彼女の想いを尋ねたわけでも無いらしい。死に戻りの混乱の中、ミーナ様に余計な負担を掛けたくなかった――――というより、彼女が逃げられない状況を作りたかったらしい。

 結果、ミーナ様は主の『契約妃』となった。

 おかげで、十年越しの想いが叶ってようやく夫婦になったというのに、片思いをしているのと同じような状況が続いている。主自身は、そんな状況すらも楽しんでいるし、何より幸せそうなのだけれど。