雇い主さんはいい人なの、と問いかける母親に、頭をフル回転させた。






「……同じ学校ですごく仲のいい子がいて、その子に新しいバイト探してるって言ったら、家政婦として働かないかって」




「へぇ~そうなの。とってもいい子ね~、そのお友達」





本当はお友達なんかじゃないけど。






おっとりと微笑むお母さんに、私は大きく頷いた。






「そう、そうなんです。それで、その子もちょうど家政婦を探していたところだと聞いたので、タイミングもよかったんです」




「そうなのね~まぁ、よく考えてみたらまことちゃんはしっかりしてるし、もんだいないわよね~」






嘘をつくときは少しだけ事実を混ぜると説得力が増す。






このテクニックを少し使えば、騙されやすいお母さんなんてイチコロだ。






「それでお母さんも仕事で夜帰ってきませんし、琴音もつれておいでって言ってくれたので」



「そうねぇ……琴音も夜家に一人だったら寂しいものね……」






うーんっと唸った後、お母さんはホッと息を吐いた。







「私としては二人がいなくて寂しいけど~……でも、子供が行きたいって言ってるんだもの~。いいわよ、いってらっしゃい」



よし、思惑通り。





心の中でガッツポーズをしつつ、穏やかな表情を浮かべ頭を下げる。






「伝えるのが遅くなってしまって、すみませんでした」



「ううん、いいのよ~。そもそも私は家にほとんどいないし、反対できる立場じゃないもの」







そう。


こう見えてお母さんはなかなかに忙しい。






平日は夕方から朝まで夜のバーで働いているし、休日は隣県にある実家の食堂を手伝っている。






「そういえば、今日は家を出るのが遅いんですね」






普段なら土曜日のこのくらいの時間にはもうとっくに出発しているはず。






寝過ごしてしまったんだろうかと心配になるも、お母さんは慌てることなくおっとりと微笑む。






「今日は夕方からの出勤でいいってお父さんが言ってくれたのよ~。こんな時間に起きるなんて新鮮ね~」






基本的に家でお母さんは寝ることしかしていない。






休日は隣県まで移動するため朝早くに出かける必要があるのだ。






特に休日は夜勤ということもあって体力的になかなか辛いらしく、朝に仕事が終わって家に帰ってからは夕方まで死んだように眠るというのが普通の事だった。






だから、お母さんはお昼ごろに起きて家にいるのはとても珍しいことだった。