「……あら~、卵焼き作ったの~?」



「うわっ⁉」






急に後ろから手をかけられて、肩がびくぅっと大きく揺れた。








「お、お母さん……」





そこにいたのは、大きなあくび混じりに柔らかく微笑む美少女……もとい、美女が立っていた。






その瞳はまだとろんととろけていて、起きたばかりだということがわかる。







「お母さん……急に声をかけないでください。火を使っていたら危ないでしょう」



「うふふ、ごめんなさいね~。おいしそうな匂いがしたものだから~」






そう言ってスンスンと鼻を引くつかせ、卵焼きを指差した。






「ねぇ、誠ちゃん。一切れだけ食べたらだめ……?」




「えぇ……起きたばかりで胃に食べ物入れたらお腹痛くなりますよ?」



「大丈夫よ~。私、こう見えて体結構丈夫なの」



全くそうは見えませんが?









ふわふわと波打つ色素の薄いロングヘアに、透き通るほど白くて、きめ細かい柔肌。






恐ろしく整った相貌と輝く大きな茶色い瞳。






それを囲う長いまつげは繊細で、瞳の大きさをよりいっそう引き立たせるかのようにカールしている。






全体的に色素が薄くて、華奢なその体つきは妖精だと言われても違和感がないほどだ。





その微笑みはどこか儚げで、神聖な雰囲気さえ感じられる。






そんな容姿をした人にそんなことを言われても、いまいち信憑性が薄かった。






疑いの目で母親を見つめていると、ひょいっと卵焼きを二切れ盗まれた。









「あっ」



「ん~っ、美味しい。誠ちゃんの卵焼きは絶品ね~」






一切れと言いつつ二切れ持っていくあたり、ちゃっかりしてる。






「……あれ? 誠ちゃんと琴音、旅行にでも行くの? 学校はどうするの?」




「……あぁ。私たちこれから半年間ほど住み込みで家政婦として働くことになったので」




「えぇ~っ?」





大きな瞳をさらに大きくしてから、お母さんはショックを受けたようで瞳を潤ませる。






「そんなこと初めて聞いたよ~⁉ どうして言ってくれなかったの~」



「どうしてって……今までアルバイト決める時に相談したことないと思うんですが」



「それはそれ、これはこれよ~。住み込みって大丈夫なの~?」






これ事情を話したら反対されるよな、絶対。