しばらくの攻防の後、加奈子がふーっと大きく息を吐いて、目をそらした。






「あーはいはい。わかったよ。お節介でしたー」



「えーなんのこと?」



「無言の圧力やめてよ」



「あはは」






加奈子が両手を上げて降伏のポーズを取ると、私は口元に手をやって、くすりと笑う。






正直、加奈子のこのゆるさには、すごく助かっている。






というか、加奈子は『あえて』この空気感を作ってくれているんだろう。






私はいつもそれに甘えていて。






何も変われていない。










「……でもさーお節介ついでに言っとくけど」



「何?」



「島津くん、本気で誠のこと心配してたよ」



「え?」









思いがけない言葉に、唇の端から声が漏れた。






「誠がいないって連絡くれてさ、間違っててもいいから可能性のある場所を教えてくれって。あんまり話したことない私を頼るくらい、必死だったんじゃないかな」




「……」







島津くんが、加奈子に連絡をとった……?



あの島津くんが……?






「それ、本当……?」






どうしても信じられなくてそう聞くと、加奈子は大きく顔を振って肯定する。






「ほんとほんと~。あの氷の王子様が、誠のためにね。あんなに話してるの初めて見たし、めちゃくちゃ切羽詰まってたから」




「島津くんが、私のために……」






小さく呟く。


すると、じんわり、胸の中に温かいものがしみわたっていって。









……心臓がぎゅっと疼いた。






「……そうなんだ」






なんとかそう返すと、加奈子はにやりと唇の端を持ち上げて。






「今のその感情、忘れないようにね」



「何にやけてるの?」



「べっつに~? 私の親友はかわいいな~と思って」



「……変なの」






照れ隠しに毒づく。






すると加奈子はにまーっとさらに顔を破顔させて。






「いつかわかるよ」



なんて抜かしている。






「……わかりたくないけど」






はあ、と大きなため息を吐いた。







手元の紅茶は氷が全て溶け切って、すっかりぬるくなってしまっている。






それをストローで吸い上げると、底にたまっていたらしい砂糖の甘味が口いっぱいに広がった。









甘い。とても、甘い。


本来私は甘いものが得意ではない。





得意ではない、が、今日はこの甘味も悪くないと思ってしまった。






……明日から、夏休みが始まる。