「まこちゃん、遅いねぇ」



「うん……」






不安げな琴音ちゃんの頭をそっと撫で、時計に視線をやる。






現在の時刻は8時半。




夏とはいえ、うっすらと暗くなり始めていて、高校生の女の子が一人で出歩くにはもう遅い時間だ。






それに加えて、小雨も降っている。









大丈夫なんだろうか。






さっきから、連絡をしようかと何度も考えるけど、そのたびに冷たい瞳を思い出して、躊躇してしまう。






『それ、島津くんに関係ないよね』



関係ない……か。






一緒に過ごしているとしても、所詮俺は他人で。






真見さんのテリトリーに踏み込むことを許されていない。






それはそうだ。






たかが数週間一緒に暮らしたことが、真見さんの不安要素を取り除く要因になり得るわけがない。






だけど、少しでも真見さんの考えに触れたいと考えるのは、おかしいことなのだろうか。









……よくわからないや。






はあ……とため息をついた俺をじっと見つめる琴音ちゃん。






「……ようへ―お兄ちゃん」



「ん?」



「まこちゃん……大丈夫かな」






その瞳にはゆらゆらと雫が浮かんでいて、俺はぐっと息を呑んだ。







「……大丈夫だよ。真見さんしっかりしてるし」



「ちがうの……」



「え?」






ふるふると頭を振る琴音ちゃん。



その拍子に柔らかな髪がふわりと揺れた。






「昨日のまこちゃんね……昔のまこちゃんみたいだったの」



「……え」






思いがけない言葉に、掠れた音が漏れた。






「それ……どういう意味?」




「……全然楽しそうじゃなくて、笑ってても、死んじゃってるみたいな。死にたいって思ってるみたいな怖い顔」




「っ……!」






琴音ちゃんの言葉に目を見開いて、がたっと勢いよく立ち上がる。






それから数秒思巡して……琴音ちゃんに手を握られた。






「お願い、ようへ―お兄ちゃん……まこちゃんを助けて。ことねじゃ、まこちゃん笑顔になってくれない……」




「琴音ちゃん……」






その小さな瞳は微かに震えていて、俺は思わず握り返す。